ここから先に行っていけないよ。
私の目を見て言った祖父。
沢沿いに、けもの道。山にはイノシシや熊も多く。
けもの道と交差する道路は車一台がやっと。
普段使わない道路のため、他の地域に用事があっても迂回でき、わざわざ通らなくてもいい道です。
私は悪い孫なので、祖父の言いつけを破って通りたくなってしまいました。
なんとなく、どうしても。車だから大丈夫だろうと。
久しぶりに悪さを働いた、ある初夏の話です。
ガタつく道を行くと、見たことのない花の群れ。
背丈に迫るほどの高さ、放射状に咲く無数の白い花。
曇り空の下、深い緑に浮かぶ泡のようでした。
現実かを確かめるために何度か瞬きをしました。
車の窓を開けて少しだけ見つめて、すぐ家路に。
短い時間がとても長く感じられたせいか、感動は徐々に畏れへと変わりました。
後から思うと鳥肌が。
でも、おそろしく美しかった。
自然への畏敬の念。そしてとても自由に見えた。
人の手のほぼ入らないであろう場所。
自然が、自然であったのです。
後から調べたところオオハナウドでした。
大きいものは2メートル近くにもなるとか。
かなりの群生でした。
あの自由な自然の、立ちのぼる強さと儚さ。
一瞬の永遠、迫りくる静けさ。
いつか大きな絵にしたいと思います。
まずは記録としてドローイングに残しました。
もちろん実物とかけ離れた色あいです。
どうにも薄暗くて、眩しかった。